1ドル札で何が買えるか - プノンペン・カンボジア 2004

  - プノンペン

 サイゴンからバスに乗り込みカンボジア国境へと向かう。この旅6カ国目となる国だ。カンボジアへの入国にはVISAが必要であったがこれは大使館まで行かずともサイゴンにある旅行代理店で取得できた。値段は26ドルだった。

 バスで2時間ほど掛けまずはベトナム側の国境の町へ。そこで一旦バスを降り出国手続きを済ませ広々とした赤茶けた大地の向こうに見えるアンコールワットを模したゲートを目指す。どうやらあそこがカンボジアのイミグレーションのようだ。大地の上には明確な線引きをなく、今歩いているここは一帯どこの国に属するエリアなのだろう、などと思ってしまう。

 カンボジア側のイミグレーションに到着した。特にみな列を作っている訳でなく、窓口に群がって1人1人パスポートを渡している。”噂”ではパスポートの間に1ドル札を挟んで渡すと優先的に入国スタンプを押してくれるなんて事も聞いていたのだが、それはやはり単なる噂だったようで誰もそんな事をしている人はいなかった。

 係員は細かくパスポートの中身を確認する事なく事務的に私のパスポートにも入国スタンプをポンと押してくれ、難なくカンボジアへと入国、そして国境を出たところに待っていたミニバンに乗り込むとこのバスがカンボジアの首都 - プノンペンまで我々を運んでいってくれるらしい。

 それにしてもこの国境の町(町と言えるほどのものでもないが)に両替所がないのには参った。ベトナムで購入していた水はまだあるのだが、いかんせんぬるくなってしまっている。新しく水を買おうにもカンボジアのお金がないのだ。ミニバンに乗り込み出発を待っていると物売りの少年達がやって来る。食べ物に混ざって勿論その中には冷たそうな水もある。しかし肝心のカンボジアのお金 - リエルがない。ドル払いでも買えそうではあるが、1ドル払ったところでお釣りをくれそうもなく、そうなると大損だ。何といってもここいら東南アジアではその当時、1ドルも出せば500mlの水で6本位は買える、それ位の通貨価値なのである。

 しかし、今は2月の終わりで乾季真っ最中である。暑さに耐え切れず、私の目の前に座っていたアメリカ人のおばちゃんが「これで水をくれ」と言わんばかりに1ドル札をひらひらさせ、物売りの少年から冷えた水を購入した。そんな光景を見ながら私は「冷たい飲み物はプノンペンまで我慢だな」そんな事を思いながら、狭く、暑いバスに約4時間揺られプノンペンを目指した。

  プノンペンの町はどことなく中国の町並を思い起こさせてくれた。町中は何だかちょっとばかり静かで、その静けさが逆に不気味な雰囲気を醸し出している、そんな町だった。

 この町もサイゴン同様、戦争の傷跡、そしてかつてこの町を強権的に支配していたクメール・ルージュの暗澹たる歴史の影をそこかしこに残しているようだった。夜になると(特に何か大きな事件があったりという訳でもなかったが)、どことなく不気味さが町中に広がり夜間の外出を躊躇った - そんな町であった。そんな不気味さを感じたのはこの旅で唯一だったように思う。

 幸い宿の目の前にはセントラルマーケットと呼ばれる黄色い建物があり、夜にはこの建物の前に屋台がずらっと並ぶ。なので、わたしは国境のバスで一緒になった日本人2人と遠出する事なくここで毎日食事を摂っていた。

 結局プノンペンには3日間だけ滞在した。その間ここで見たものといえば前述したクメール・ルージュが大量の粛清を行っていたトゥール・スレン位だ。ここだけに限らずこの粛清でカンボジアで大量の無辜の市民 - とりわけ医師や教師、そして知識人たちが虐殺されてしまった。

 この粛清は秘密裡に行われていた為にトゥール・スレンは正式な名称という訳でなく、現在はその地名で呼ばれているらしく、そこは廃校となっている学校だった。建物内には強烈な写真や拷問の跡など、東南アジアのそしてカンボジアの悲しい歴史がここにあった。

 昔読んだ本の中である方が、このクメール・ルージュの大量の粛清はまさに国全体が自殺をしたかのようであった。 - とそんな表現をしていた。そして私が訪れた2004年、そんな影響を受けてか町中には多くのストリート・チルドレンが溢れており、夜、屋台で食事をしている時でさえ子供たちが物乞いに来るというそんな有様であった。


 そんな状況においても町中で出会う子供達は笑顔で元気そのものであった。そして、いまではこの町もサイゴン同様に徐々に発展し、既に煌びやかな町になっているのであろうか。多くの市民、とりわけ子供たちの為にもこれからこの国ももっともっと平和に、そして人々が豊かさに暮らせる、そんな町になってもらいたい、そのような思いである。

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