別府にて、梅田哲也さんの「0滞」を体感

 2年ぶりの別府である。九州に長らく住んでいた私として大分は当然これまでに何度も訪れた事はあるが、それ故に陸路で行く事が多く大分の山側 - つまりは、日田や天ヶ瀬温泉、湯布院などを訪れる事が多かったのであるが、関東に越してからは飛行機でINする事となり、それ以来海側 - つまりは空港が海側にあるという事もあり、別府などのエリアの方が身近になりつつある。

 雪の影響で飛行機は遅れに遅れ、午前中の便の筈が午後遅くになってしまい、結局到着したのは夕方前。九州に来るといつも感じるのは陽が長い事だ。暫く晴れ間を見ていなかったせいか大分空港到着後、晴れ渡る空を目にし、視覚に心が付いていかないというか、 - 何と言っても前日からずっと曇りのどんよりした世界で過ごしていたのに、1時間半飛んだだけで晴れ渡る世界に来てしまったのだから - 到着早々、何だか不思議な感覚に陥ってしまった。

 さて、翌日も大分の空は快晴 - この日は梅田哲也さんの「0帯」という作品を見に行く予定だ。

 こちらは別府のアートNPO (BEPPU PROJECT)が主催となり、毎年1組のアーティストを招聘しての芸術祭「in BEPPU」を別府の町で展開しているのですが、第5回目のアーティストは梅田さん、そして2020年度に彼が展開した「0帯」という作品をこの度、更新しての再公開を丁度私が訪れた時期に開催しているというタイミングでした。

 今回のこの作品は体験型といいますか、サウンドインスタレーションというようなものが別府の各所に展開されており、鑑賞者は貸し出されたラジオを片手に会場を巡って行くというもの。
 そして訪れた先々には目に見える形で何か作品があるという訳でなく、そこでキャッチしたラジオ音声を目の前に広がる風景と共に楽しむという仕掛けが施されていたのでした。

 

 まずは、この作品巡りでとても重要となるラジオを借りるべくBEPPU PROJECTさんの事務所を訪れる。2年前に国東半島の芸術祭やら修正鬼会に連れて行ってくれたスタッフさんにも事務所内で偶然会って話す機会もあったりで何だかほっこりしました。(以前書いた国東半島のBlogはこちら

 ラジオも無事に借り、巡るべくマップも頂き、いざ出発。まずはラジオがきちんと機能するかどうか、駅前の熊八像のところでチェックできるという事で、熊八像へと向かう。

 熊八は今日も元気そうだ。

 さて、マップを確認すると音声をキャッチできる箇所は10箇所ほどありそうだ。しかし、今回は特に車を使う訳でもなく駅から歩いて行ける箇所は3箇所ほどになりそうで、ひとまずこの3箇所を巡る事とする。

 因みに音声は自動で受信できるようになっており、ラジオの赤色LEDがゆっくり点滅している状態から早く点滅し出すと受信状態になり、完全に受信すると緑色になるという優れもの。

 まずは別府湾を背に左側のエリア - つまりは浜脇辺りを巡る事になりそうだ。前回は別府の町は駅周辺しか巡っていなかったので、このように作品に釣られる形で普段はあまり訪れないようなエリアを巡れるってのもこの芸術祭の魅力の1つかもしれない。

 貰った地図で見ると割と距離がありそうに思えたが、歩いてみると意外とあっという間というか、少々迷いながらも10分ちょっとでまずは最初に目指していた「中浜筋」という場所に到着。

 この時点では実はどんな作品(というコンセプトも)かもそれ程分かっておらず、音声の手助けとなるような - 所謂、何か作品とでも呼べるようなもの - が存在するのかと思いきや、そこにあるのは立て札のみ、そして近くにはプレハブっぽい小屋もあるのだが、それは作品でもなさそうだ。

 ひとまずラジオのLEDが急激に点滅し始めたので、急いでジャックにイヤホンを差し込む。暫くするとLEDが緑色に変わり、音声が流れ始めた。

 - 詳しい内容は忘れてしまったが、「さらさらさら~」だったか「そよそよそよ~」のような男性の音声、そして暫くすると女性の音声が耳に届く。妙に耳心地がよい。具体的に何かを説明している風でもなく、どちらかというと詩の朗読を聴いているようだ。
 目の前には作品は何もない。つまりはこの場の風景というか、空気感を感じながらこの詩を聞く、それが今回の作品のコンセプトのようなものなのか、と段々と理解し始めた。それにしてもこの朗読がとてもよく、初っ端から「面白い!」と早くも作品世界へと入り込んでいった。

 最初の作品をすっかり堪能した後は、地図上に「丸井戸」と記されたエリアを目指す。貰ったマップの裏を見るとそれぞれのエリアの解説が記載されており、どうやら流れてくる詩は、そのエリアの風景や建物についての事だったようだ、と今更ながらに気付く。

 ちょっと迷いながら「丸井戸」に到着。途中途中に道案内が何も出てないのだが、これがよかった。地図とにらめっこしながら町を歩き、作品の場所を発見するのは、何だか小さい頃経験したオリエンテーリングをやっているような感覚があり、立て札を見つけた時はついつい嬉しくなってしまう。

 さて、歩いて巡るとなるともう残りは1箇所だけだ。何だかもっと巡りたい気もするが、ひとまずは次のエリア「別府スパビーチ」を目指す。「丸井戸」からは30分程あるという事で、ずっと歩きっぱなしという事もあり、それなりに疲れてきた。暫く歩くとバス亭があったので、バスに乗ろうかとも思い道路の反対側に渡ろうとすると別府タワーが見えた。「別府スパビーチ」はタワーのちょい先でもあり、それ程遠くないようだ。と気を取り直し再び歩く、歩く、歩く。

 「別府スパビーチ」はその名の通りビーチが広がるエリアだ。ビーチに到着し暫く歩いていると立て札を見つけるよりも先にラジオのLEDが緑色に変わったので、急いでイヤホンをジャックに差し込む。

  - 遠くに汽笛の音がし、音声が流れ始めた。ビーチ沿いにある石の階段に腰を降ろし暫し、音声に耳を傾ける。このようにして目の前にある風景を眺めながら詩の朗読を聞いていると風景と1つになれたかのようで実によい。

 目の前を小型のボートが波を切り横切っていく。先ほどの汽笛はこのボートには似つかわしくないな、と思うにあの汽笛の音は実際の音かと最初思ったが、耳に差し込んでいるイヤホンからの音だったのかもしれない。そんな事を思うと、目の前に広がっている世界とこのサウンドインスタレーションが渾然一体となり、どこまでが現実でどこまでが現実でないのか曖昧になってくる。

 暫くすると白いカモメが大きな弧を描き頭上を飛んでいった。目の前の風景はどうやら現実のままのようだ。

 もう少し作品を見たいなと思い地図を確認すると鉄輪エリアにも1つ作品があるようだ。鉄輪は翌日に行く予定であったのだが、今日はラジオもある事だし折角だからと行く事にした。

 そして鉄輪で作品を堪能し、合計4つ程回り、最後は別府に戻ってきて、映画館へ

 - 実は映画館でこの作品の作者の梅田さんの映画とでもいうか映像作品も夕方から流される予定で、それを観る事になっていたのだ。主演は何と森山未來さんと満島ひかりさんだ。とても豪華。

 旅をする時はいつも事前に色々と情報を仕入れずに行き当たりばったりで旅をするのが好きなように、今回、この梅田さんの作品についても事前に何も調べたり、レビューを見たりせずにいきなり作品を見る事にした。
  - ラジオを持って巡る作品と最後に観た映像作品は、全くの別物、と何故か勝手に思っていたのだが、実はそんな事なく、これら2つは見事にリンクしており、映像が進んでいくにつれ、徐々に今日1日の事が映像内で繋がっていき、そして最後に1つの世界観を作り出す、という何だか驚きに包まれた素晴らしい作品でした。

 そもそもが全てをひっくるめて1つの作品と知っていればそんな感動もなかったと思うと、行き当たりばったりで作品と向かい合って良かったというものだ。

 作品は目の前に何もない、あるのは音声だけ、というこれまで(正に)見た事も聞いた事もないような作品でしたが、実に素晴らしい体験でした。

※こちらの作品は2022/2/13で終了しています。

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