あぁ 鳩間、Nifai-you ~八重山の旅2022

 石垣島から船で約1時間、西表島の上に位置する人口僅か54人の小さな島、鳩間島。

 ここは日本最南端の波照間島や最西端の与那国、そしてジャングルの中でアドベンチャーを売りとする西表島のように何か”売り”というものが特にある訳でもなく、ひっそりと西表島の上に佇んでいる。そう、言うなれば何もないのがよい、そんな島である。

 鳩間島へは日帰りの予定だ。その為朝一の乗船券を購入 - 西表島の上原港を経由しての便で朝8時半発だ。戻りは3日間のオープンチケットになっているが、一応16時05分の船で戻る予定であるので6時間位は島に滞在できる予定である。

 船に乗り込むと乗客は7、8割程度は埋まっており、予想よりも鳩間島を訪れる人が多いと思いきや、殆どの乗客が西表島で降りてしまい、鳩間島まで行く人は10数名程度になってしまった。西表島からも数人乗ってきたが、やはり鳩間島まで行く人は少ないようである。

 西表島から走ること15分程度で港に着いた。思っていたよりもずっとずっと海の色が鮮やかだ。

 港からもう既に鳩間ブルーの海である。ここは小さな島で1時間程度で島を1周できるとの事で、今回は歩いて島を回る事にした。

 ターミナルに寄って地図でも手に入れようかと思ったが何も置いておらず、仕方がないので港のところに設置してある案内板の地図を携帯で写し、それを頼りに歩く事とした。港から西に向かうと屋良浜があるようなので、先ずはここを目指してみよう。泳げそうであればここで泳いでみるのもいいかもしれない。

 港から伸びる坂を真っ直ぐに歩き、暫く行くと左に折れる道がありそちらに進んでみることにした。随分な畦道である。左手に海を眺めながらちょっとした国道のような道をイメージしていたのだが、感覚としては何だか海から随分離れているような感じがする道である。Googleマップで確かめようと思ったけど電波状況がよくないのか、うまく表示できない。とは言え、他に道もなさそうなので構わず進んでみる事とした。

 暫く進み、勘のようなものもあるけど、この道はやっぱり違うのではないか。。と思い、再びGoogleマップを開くと今度は上手く表示してくれた。果たしてその通り、随分と目指しいる屋良浜からは離れた方角に進んでいるようだ。このまま進んで浜をやり過ごしても島は一周できそうな気もするが随分と内陸に入り込む道のようで、ここってハブとか居る島だっけ?とか思うとやはりこのまま進まない方がいいような気がしてきた。来た道を戻るというのはなかなか決断がいるものでもあるが(しかもこの日は凄く暑かった)、思い切って引き返し、一旦港の方まで戻り道を再度探してみる事とした。 - 結果、この時戻って正解であった。

 結局港から伸びる道まで戻るとカフェのある裏手に砂利道があり、ここが屋良浜への道かな?と思っていた所、港の方から丁度1人の女性が坂を上がってやってきた。屋良浜はこの道で合っているかどうか聞いてみると、この砂利道がやはり正解であった。「歩いて行けますかね」というか、自転車を借りて島を回った方がいいかどうかの意味も込めて聞いてみると、浜はここから800m程で歩いて行けるし、自転車道に乗るにしても道が悪いので自転車でなくてもいいのでは、、と教えてくれた。

 そして、最後に「水は持ってますか?」と聞かれたので昨晩石垣島で購入した600mlのペットボトルを差し出すと残り1/3程度であった。それを見た女性が「それじゃ~足りないかも~」と言いつつ私のペットボトルを受け取り、カフェの給水機から水をじゃぶじゃぶと継ぎ足してくれた。聞くとこのカフェで働いている方であった。水を大量に補給してくれ、尚且つここから見える桟橋からの眺めもいいですよ、という事で先ずは桟橋に向かう事とした。色々と親切にしてくださり、感謝感謝である。

 ごつごつとした道を歩き、桟橋の袂までやってきた。ここから広がる浜も美しい。目の前には青い海、そしてどーんとでっかく西表島が見える。

 そして、鳩間島と言えば(私の中では)やはり八重山民謡の唄者の鳩間可奈子氏である。ずっと鳩間島生まれかと思っていたけど、石垣島生まれで中学の3年間を鳩間島で過ごしていたようだ。持っているアルバムの中にも鳩間島の事を唄っているものが幾つもあり、これは是非、鳩間島でいつか聴いてみたいと思い、桟橋でやり過ごしながら風や波の音、そして時にはそれら鳩間島の唄を聴きながら過ごした。

 こういう何もしない時間が私が好きな八重山での過ごし方である。

 この桟橋にはずっと居たい気もしたがそうもいかず重い腰を上げ屋良浜へと向かう事とした。鳩間島に到着してからもう1時間位は過ぎていようとしているのにまだまだ全然進まず、まだ港の近くにいる。それにしてもこの日は暑い。初夏や梅雨をすっ飛ばして一気に夏がやって来た感があり、体に気持ちが付いていかない。一体今の季節はいつなのだろうか?そんな事を思いながら炎天下の中歩いているとようやく屋良浜が見えてきた。

 ちょっとした緑に覆われとこから道が広がり、そこに出来た空間から白い浜と青い海が見える。私が好きな光景だ。浜に行くと5,6人の女性グループがラップを掛けながら談笑していた。あまりジロジロと見る訳もいかないし、少し離れた所に腰を降ろした。どうやらここにはシャワー室などはなそうで、(折角着替えも持ってきたいたが)泳ぐのは諦め、膝下辺りまで浸かるだけとした。それにしてもやはり海は抜群に綺麗だ。

 ここから先は特別何か見所がある訳でなく、同じように浜が幾つか点在しているようだ。歩くのも結構しんどいし、ここから引き返し、集落をぶらぶら歩いたり島の真ん中辺りに見えた灯台に行ってもいいかなとも思ったけど、これまで八重山の島々 - 例えば波照間もバイクで1周、与那国もバイクで1周し、そうする事によって島の概要とでも言おうか、イメージが自分の中にインプットされた事を思い、やはり1周して島がどれ位の大きさだとか、島の感じを掴むべく、更に歩いて回る事にした。

 途中自転車に乗って島を巡っている人に追い越される。そして草ぐさの匂いがどこかで嗅いだ気がする - 記憶の糸を辿り、何の匂いか必死に思い起こそうとすると突然閃いた - これは、別府の鉄輪温泉の蒸し湯(薬草がひかれた釜の中で8分ほど入るという温泉)の中にひかれていた薬草の石菖の匂いがする。恐らく今漂ってくるこの匂いは石菖ではない筈だけど、蒸し湯の中と同じように回りの草ぐさが蒸され、もわっとその匂いを漂わせているのかもしれない。その位もうこの辺りは暑い、という事だ。

 そんな中、幾つかの浜、そしてガジュマルの木々を目にし約1時間ほどで島を無事1周することができた。

 暫く歩くと集落の外れにご飯を食べられるところがあった。近くまで行ってみるとお昼のオープンまであと15分あるようである。しかし、もうこれ以上歩く気力もなく本でも読みながらお店が開くのを待つ。お陰で1番で入る事ができた。集落にお店がそれ程ないという事もあるのか、オープンして直ぐに外の席まであっという間に満席になってしまった。1人で入ってきた方が入れそうになかったので、相席でもいいですよ、という事でテーブル向かいの席を譲ってあげることに。

 私はカレーをオーダー。(どうでもいい話であるが)相席した方が食べていた島豚の冷しゃぶプレートも美味しそうであった。

 食事の後は体力チャージできたのか、まだまだ歩ける気力が沸いてきた。集落を巡るが、他の八重山の島々の集落に比べとても小さくあっという間に見終わってしまう。長崎の中華街のように小さい。けど、その小ささが逆に心地よく、そしてそこにかしこに咲く花々が美しく、本当に落ち着いたいい島だなぁと思う。

 中森と呼ばれる小高い丘にある森、そしてそこにある灯台を見てしまうと大体を見てしまった感じである。この中森にクバが群生している空間があるのだけど、そこから醸し出されている空気もそして時々聴こえて来る鳥達の鳴声も素晴らしく、ここでも暫く時間を忘れて佇んできました。

 ざっと駆け足で巡ったというのもあるせいか、16時05分の船までには時間がちょっぴり余ってしまった。私の他にも沢山の1人旅のしかも同じく日帰り組みの人達を見かけたけど、他の人も同じように時間を持て余したのか、港の待合室で本を読んだり、中には横になって寝ている人もいたり。。

 私も結構歩いて疲れていたのもあり、このまま港の待合室にいてもいいかと思ったけど(ここは丁度風の通り道になっているのか、爽やかな風吹き抜ける)、船が来るまでここに居るのも勿体無い!と思いなおし最初に道を教えてくれた女性が働いてるカフェを訪ねてみる事とした。宿と兼用のカフェらしく、会った時その女性は宿の案内ボードみたいなものを持っていたので、カフェにはもう居ないかも、と思って行ってみたけど、無事再会できた。

 お礼を述べ、島を巡った話など色々と話もできてよかった。彼女のお陰でお店の他のスタッフの方達とも仲良くなる事ができ、こう言う出会いで訪れた先とか島の印象ってぐっと変わるもので、そういった意味でもここのカフェの人達との出会いには感謝だし、あの時やはり道を引き返してよかった。

 このままこの島に滞在したい気もしたけど、この日の夜は黒島に宿を取っている。そして予報ではこの後、天気が急変するらしく船も欠航するかもしれない(予報どおり天気も崩れ、後日暫く鳩間便は欠航続きとなった)のでやはり船に乗るしかない。

 最後はこのカフェの人達がおススメしてくれた港近く、小学校前の海を見に行って鳩間島巡りは終了。

 ー 先に書いた鳩間可奈子さんの唄に「NIFAI-YOU」という鳩間島の事を唄った歌があるのだけど(作詞作曲は知名定男氏だ)、正にその言葉どおり(”にぃふぁいゆ~”とは八重山方言で”ありがとう”の意だ)、島、そして島で出会った全ての人達へ、ああ 鳩間、NIFAI-YOU。

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