リュウキュウコノハズクの声で眠れ・黒島 ~八重山の旅2022

 朝6時起床 - 一昨日から崩れた天気そのままに今日も曇り空の黒島だ。

 民宿で貸してくれる無料の自転車に乗り込み、島の北にある伊古桟橋を目指す。朝早いせいか道中誰ともすれ違わない。黒島には3,000頭居るといわれている牛たちもそろそろ活動を始めているが相変わらずの静けさで、辺りはしんとしている。聞こえて来るのは時折頭上や目の前を横切るカラスやリュウキュウアカショウビンの鳴声だけだ。

 そんな中、自転車で走る事約20分、伊古桟橋に到着した。昨日、昼過ぎに訪れた際は絶賛干潮中で、かなり潮が引いていたが、早朝はその逆でかなり満ちている。その様はまるで桟橋が海に浮かんでいるようでもあった。

 そして、朝早く起きてここまで来たご褒美なのか、この時、運よく海中を泳ぐ海がめを3頭見る事ができた。

 思えば一昨日、黒島行きの船にはギリギリに乗る事ができ、あやうく最終便の船を逃すところであった。

 その日私は鳩間島を日帰りの予定で訪れ、帰りの鳩間港発(最終便の)16:05分の船に乗船予定で、当初の予定では1時間程で石垣島へ到着し、そこから直ぐに17時半の最終の黒島行きに乗る予定であった。

 しかし、夕方から天候が崩れ始め風も強くなってきた為か帰りの船が鳩間島にやって来た時には既に10分遅れであった。しかも、帰りも来た時と同様、西表島の上原港経由である為、思ったりも時間が掛かった。船に乗っている間も何となくずっと嫌な予感がしていた。その予感通りとでも言おうか17時半になった時点で船は石垣島の港に着くどころかまだ海上にいた。しかも港が近くなってきたせいか、船も減速し始め、こちらの気持ちとは裏腹になかなか港に到着しない。

 そして、17時38分頃、船はようやく石垣島の港に到着した。港にはこれから黒島に出発しようとしている船は見当たらない。もう既に出港してしまったようだ。。最終に乗り遅れたとなると予約していた宿にキャンセルの電話をしなくてはならない。もう遅い時間だし食事の準備等もしてくれているだろう、何だか申し訳ない気持ちになった。それよりもこの日の石垣島での宿を確保しなくてはならない。GWの真っ只中、こんな遅い時間に電話して空いている宿なんてあるのだろうか。。船内で色々と不安になったが、ひとまず船を真っ先に飛び降り、港に預けていた荷物を受け取って、桟橋に戻る。

 - 黒島行きの船は6番乗り場である。一先ず6番乗り場に行ってみよう。もしかしたらこちらもまだ船がどこかからやって来ておらず出港していないかもしれない。
 朝、石垣発の鳩間島行きは5番乗り場から出たので、帰りもてっきり5番乗り場に着岸したと思い込んでいた。なので、その隣の6番乗り場へ行こうとしたら、右隣は「7,8番乗り場」と書いてある、、「左隣か」と思い直し、戻ろうとするとこちらには「3,4番乗り場」と書いてある。ん?どうやら1つの桟橋を挟み、左右で5,6番乗り場であった。 - 先ほど下船した桟橋自体が5,6番乗り場であった(この間、頭も体もフル回転)。

 要は、鳩間島から来た船は石垣港では5番乗り場でなく6番乗り場に着岸し、それがそのまま黒島行きの船になっただけであった。どうりで鳩間島から石垣港に着岸する際に黒島行きの船が見当たらない筈である。自分がその時乗っていた船が折り返しで黒島行きになった訳であるから。 - かくして、桟橋探しに右に左にと走り時間をちょっと食ってしまったが、船は待ってくれており無事乗り込むことができた。私が最後の乗客であった。

 ある日の事、黒島港近くにあるハートランドと呼ばれるお店(黒島は上から俯瞰して見るとハート型の形をしている為、ハートランドとも呼ばれる)で昼食を食べた後に会計を済ませ外に出ようとしたところ、店内に何と羽田から石垣島までの飛行機で隣り合わせた家族4人組みの方と再会した。飛行機の中では話す事はなかったけど、お互いに覚えており、まさかの再会であった。この方々とはその後も桟橋、道すがら、そして仲本海岸でも再会し、終いには小さな息子さんが私の顔をすっかり覚えてしまい、会う度に「こんにちは~」と元気良く挨拶してくれるまでになった。旅中のちょっとした出会いである。

 その仲本海岸ではちょっとばかし泳いだり、またここには離島ではよく見かける赤瓦の東屋と呼ばれる休憩所があり、ここでゆっくりと風に吹かれ何もせずただ、ぼーっと海を眺めたり本を読んだりする事もでき、島ならではの贅沢な時間を過ごせる場所であった。

 黒島にいる間中は残念ながらほぼほぼ曇り空で、時折うっすらと太陽が顔を覗かせる程度であった。写真はぱりっといい感じでは撮れなかったけど、島内を散策するにはいい気候でもあった。4月、5月と言えどこの時期の八重山の日差しは強い。その為、あまりにも天気が良いと長い間外に居られないというのもあり、かと言ってざーざー降りの雨でも困るしで、時折爽やかな風が吹きぬける曇り空というのもそれ程悪くはなかった。

 島内に沢山生息する牛達や野生の猫、そして美しく咲き誇る花々など - 昔、与那国島であった人が与那国の次には黒島が好きだと言っていたけど、その気持ちも分かる気がする。

 のんびりと過ごしたい人には持って来いの島である。

 今回宿泊した宿(他、島内にある宿はどこもそうだと思うけど)は海にも近く、自転車も無料で好きな時にいつでも乗っていいというものであった。特に誰がどの自転車に乗るという取り決めがある訳でもないので、気が向いた時に自転車に乗ってどこにでも出掛けて行けるという自由さは島を満喫するにはとても良かった。

 宿では私と同じように旅している人達と知り合い夜は夜で泡盛を飲みながら旅や島の話をする事ができ、まるでアジアを旅していた時のようでもあった。
 満天の星空の下で、という具合にはいかなかったけど、しんと静まり返った夜、「ホー」「ホー」と短く鳴くリュウキュウコノハズクの鳴声をBGMに、旅で出会った人達と泡盛も酌み交わす、そんな風に毎日、黒島の夜は更けていった。