眠りを誘う街 - ヤンゴン・ミャンマー 2004

- ヤンゴン


 バンコク発ヤンゴン行きのビーマン・バングラデシュAirは16時35分発であった。

 出発の2時間ほど前にはバンコクのドンムアン空港に到着し、準備万端、乗り遅れることはない。しかし、肝心の飛行機がやって来ない。どこからバンコクに飛んでくる予定であるのかは不明であるが、搭乗ゲートを知らせるモニターはいつまで経っても私が乗る予定のビーマン・バングラデシュ便だけ空白のままになっている。

 そして、とうとう出発予定時間の16時35分も過ぎてしまった。依然としてビーマン・バングラデシュの飛行機は今どこで何をしているのか知らないが、バンコクにはまだ到着していないようであった。

 結局のところ、事情はよく分からないがこの飛行機はバンコクまではやって来なかった。19時頃になってようやく搭乗者が集められ代替の便に振り分けられることになり、私はタイAirの便に振り分けられる事になった。ラッキーだ。というのもタイAirはとても立派であるし、ビーマン・バングラデシュAirに比べると機材もサービスも数段上であろう。空港で随分と待たされてしまったが、タイAirへの振り替えは嬉しい限りである。

 
 最終的に出発は20時の便となった。 - 3時間半も飛行機が遅れたおかげでヤンゴンの空港に到着した時点で、何だかもうクタクタであった。空港周辺はそれ程活気もなく客引きのTaxi運転手なんかも控えめであった(この辺り人の良いミャンマー人らしい)。

 市内までは同じ飛行機に振り分けられた日本人他2名とTaxiをシェアして向かう事にした。暗いせいもあり、はっきりとはしないが道中はのんびりとした光景というよりも何だかちょっとした喧騒も感じられる。Taxiの車窓から暗い街中を見渡すと、遠くに見えたパゴダ(仏塔)がとてつもなく明るく黄金色に輝いていたのが何だか妙に記憶に残っている。

 ミャンマーの町中を歩いていてまず驚いたのが、人々が顔に施している日焼け止め - 通称タナカと呼ばれるものだ。これは天然素材の日焼け止めで大体が黄土色をしている。人々はそれを顔に塗りたくって、顔にはっきりとタナカの塗り後が分かるという有様。子供たちなんかは寧ろタナカでほっぺたにグルグルの渦巻状の模様を描いたりして、ちょっとしたファッションのようでもある。

 最初タナカの事を知らなかった私は、初めて見た時にアフリカかどこかの民族がよく顔に施しているペインティングの一種か何かと思い、(こう言っては何だが)ぎょっとしてしまった。その後見慣れてくると何だかそれがとても可愛いものに見えてくるようになったというのもタナカの不思議な魅力の1つである。

 そして町を歩く人々は老若男女ほぼ皆がロンジーと呼ばれる布スカートのようなものを身に着けている。そんな出で立ちでザッザッザッとサンダルの音を響かせながら町中を闊歩する姿はこれまで私がどこでも見た事のない世界であり、そんな事もあったか今でもあの頃のミャンマーを思い起こすととても不思議な、とでも言おうか、一種の何か独特の雰囲気が町中に漂っていたのを思い出す。

 ヤンゴンの町の中心にはスーレー・パゴダという金色のパゴダが建っている。正確に言うとスーレー・パゴダを中心に町が出来たのであるけれども。町中を歩いているとどこからでもこのパゴダが見えるのが嬉しい。

 そして、町の北にはシュエダゴン・パゴダと呼ばれるこれまた金色の巨大な寺院がある。基本的にミャンマーの寺院内はどこでも土足厳禁で、寺院内に入る前に靴を脱がなくてはならない。寺院内の移動も素足であるので、3月の終わりのこの時期(ミャンマーはこの時期1年の内で最も暑くなる)、寺院内を素足で歩くのはとても暑く、まるで夏の砂浜の上を「熱っ、熱っ」と言いながら歩いているようなものである。地元の人達は慣れているのか平然と歩いているのであるが。

 寺院内はこれでもかと言わんばかり、見渡す限りの金・金・金に装飾されている。黄金の国・ジパングとはミャンマーの事を間違って日本と伝えられたのではないだろうか、それ位に黄金色が輝かしい。そんな中、何体もの色白の仏様が鎮座しており、これまた(こう言っては何だか)ちょっと異様というか不思議である。やはり、不思議の国、ミャンマーである。

 寺院内にある様々なお堂内では人々はお祈りを捧げている姿も勿論見る事が出来るが、沢山の人がここで昼寝をしているのである。確かにこの暑い時期、日陰になった建物内はやや涼しくもあり、お昼寝するにはもってこいの場所のようにも思える。そんな姿を見ていると何だか私も眠気に誘われ、ついうとうととしてしまい、ミャンマーの人達と同じくごろんとお堂内に横になり眠ってしまうのである。

 そう、ミャンマーは正に眠りの国でもあった。

 更に北へ行くとマイラムー・パゴダという仏教説話に基づいた様々な仏像があるパゴダがある。訪れたその日は子供たちの出家の儀式であろうか、そんな光景に出くわす事ができた。(正確には何の儀式であったかは不明)。色とりどりの民族衣装を身に付けた子供たちが父親に担がれ隊をなして目の前を歩いて行く。

 それにしても不思議な寺院である。ミャンマーを歩いているとこの”不思議”という言葉が自然と何度もこぼれてしまう。1つ1つ見ていくと確かに説話の一場面であるのであろうが、何ともちょっとばかしコミカルである。町中なんかできりっとした寺院を見て歩くのに疲れた時、ここでほっと一息付くのもいいかもしれない。

 それにしてもやはりこの時期は連日暑い。寺院を出た所に生搾りのサトウキビジュースを販売していた。1つ注文するとロンジー姿のおじさんが気合を入れ、ガシガシとサトウキビを搾ってくれた。カメラを向けると後ろにいたお姉さんが何故か大笑い。そう、ミャンマーは眠りの国でもあるけれど、微笑みの国でもあるのだ。道行けばどこでも、そんな笑顔に出会う国である。

 ミャンマーを形容するに不思議な国という印象と共にあるのがやはり微笑みの国である。

 暑い中、おじさんが気合を入れて作ってくれたサトウキビジュースをぐいっと飲むと甘さが身体全体に染み渡った。

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